第3回掛軸と絵画の未来展、大盛況のうちに終了

第3回掛軸と絵画の未来展、三溪園鶴翔閣での9日間の会期を終え、

大盛況のうちに終了致しました。

会期中の来場者は、2,375名。

どの作品も魅力的で見応えがあった、掛軸の見方が変わった、

などなど大変うれしいお声をたくさんいただくことができました。

今回のブログでは、そんな未来展を振り返ってみたいと思います。

和室、床の間が減少する昨今、それに伴って、

そこに飾られていた掛軸の需要も減りつつあります。

日本画家の間には掛軸画ではなく、

額やパネルを想定した描画が主流になってきています。

掛軸に仕立てる場合の画は、

薄い紙に、柔軟かつ剥離しない絵具で、

かつ水気を入れても滲まないように描く必要があり、

創作活動に様々な制約があります。

一方、額やパネルに仕立てる場合は、

紙の厚さや大きさ、絵具の濃さや重ね塗りを気にする必要がなく、

軸画に比べて自由な表現が可能です。

額やパネルを選択する画家が増えているのは、そのような理由もあるようです。

掛軸に仕立てる画を描く画家がいなければ、我々表具師は

新たな掛軸を作ることが出来ません。

私たち表粋会は、掛軸・表具文化を未来に継承するにあたり、

まず軸画を描く画家を増やすことが何より必要だと考えました。

この未来展は、関東近郊の美大数校にご協力いただき、

本企画に参加された学生・院生の方々が、

今後、画家として活動する際に、掛軸を表現方法の一つとして

加えてもらおう、との思いでスタートさせたものです。

思い起こせば、11カ月前。2021年9月25日。

2018年、2020年に続いて3回目となる今回の未来展、

我々表具師と、画家である学生・院生の皆さんとの最初の出会いは、

横浜市開港記念会館での未来展説明会でした。

参加学生のほとんどは自身の画を掛軸に仕立てたことがなく、

そもそも日本画を専攻していない学生も参加するため、

掛軸に仕立てるためには、どのような点に注意して

画を描く必要があるかについて説明をしました。

それから3ヶ月経って、2021年12月末。

29名の学生・院生の方から作品が寄せられました。

いずれも既存の軸画とは一線を隔す、斬新な作品でした。

年が明けて、2022年1月16日。

この日、表具師たちが自分が担当する作品を決定しました。

この画をどんな掛軸に仕立てようか、想像を膨らませます。

1月末。

自分が担当する作品を描いた学生と意匠の打合せを行いました。

我々表具師が普段手掛ける掛軸のお仕立ての場合、

ご依頼主さんから、どのような仕立てにしたいか

寸法や色・柄など、指定を受けることがほとんどです。

しかし、未来展の場合、

画が画家さんにとっての作品であるのと同時に、

表具(軸装)については、表具師の作品でもあります。

そのため、画をお預かりして以降、

どのような掛軸に仕立てるかは

表具師の裁量で、感性を最大限発揮するところとなります。

とはいえ、表具師の勝手な画の解釈で軸装を進める訳にはいきません。

まずは、画家さんが、どのような意図や想いで描いた画なのか、

それをご本人の口から聞いて、作品をしっかりと理解することが

より良い掛軸への第一歩となります。

そのような訳で、この「意匠打合せ」が実施されています。

しっかりとヒアリングを行い、作品への理解が深まり、

これ以降は、表具師の方で、使用する裂やその他部材の選定、

デザイン・寸法の検討期間となります。

考えに考え抜いたデザインに最適な裂はどれか。

2月下旬には、

表装材料や道具を販売するマスミ東京さんにて、

イメージに合う裂地の購入会をしました。

これ以降は、ひたすら表具師がそれぞれの作業場で

掛軸を仕立てていく期間です。

掛軸の提出日は6月5日。

約3ヶ月の制作期間は、それほど余裕があるスケジュールとはいえません。

迷いなくテキパキと。

とはいえ、時に、もっと良いアイデアが湧いてきたり、

もうちょっと上手く仕立てられたのではと、

やり直しをしたり。

そんな試行錯誤を繰り返して6月5日を迎えます。

各々趣向を凝らした掛軸が集まりました。

他の会員がどのように仕立てたのか、一同興味津々です。

掛軸は、パッと見た時の色や形ももちろんですが、

じっくり観察することで、裂の持つ質感や、

表具師がどのような意図をもって材料を選び、仕立てたのか、

など、より深く味わうことができます。

特に未来展に出展する掛軸の場合、

今まで見たことのない裂、仕立てを施された掛軸ばかりで、

掛軸を見慣れた表具師でも時間を忘れて見入ってしまいます。

未来展の設営日は2022年8月12日。完成した掛軸の提出日は6月5日。

設営の2ヵ月も前に掛軸を提出するのには訳があります。

それがこれ。

今回の掛軸を収めた図録です。

設営日までの約2ヵ月、

掛軸の撮影と、それを図録にまとめるための編集作業、

そして印刷・製本期間に費やしました。

未来展は、文字通り、未来を志向した掛軸が一堂に会する場ですが、

会期が終了してしまうと、その斬新な画・表具を見る機会は

二度とありません。(販売成立し、会期後、新たな持ち主の元に旅立つ軸も珍しくありません。)

それをせめて記録に留めようと始めたのが「図録」です。

この図録、撮影場所にもこだわっています。

通常、掛軸を飾るのは床の間ですが、

和室が減り、床の間がない家が多いという、現代の住宅事情を鑑みると、

これからの掛軸は、リビングや玄関、廊下など、

様々な場所に飾っても映えるものである必要があると思います。

今回3回目となる未来展の図録は、

ハウスメーカー様にご協力いただき、

モデルハウス内に掛軸を飾って撮影をしています。

未来展にお越しの方に、購入をお勧めすると

「素敵な掛軸だけど、うちには飾る場所(床の間)がないから~」と

おっしゃる方もいらっしゃいますが、

この図録はそんな方にこそ見て欲しい、表粋会からのご提案資料でもあります。

今回の未来展にお越しいただけなかった方も、

是非、ご覧いただければと思います。

さて、未来展の振り返り、今回は企画スタートから、会期直前までの

模様をお伝えしました。

次回のブログでは、

会期中の会場の雰囲気、出展された掛軸、参加画家・表具師の写真などを公開致します。

ご来場いただいた方も、残念ながらご来場いただけなかった方も、どうぞお楽しみに。

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